一般財団法人 山本美香記念財団(Mika Yamamoto Memorial Foundation)

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2026年5月22日
第13回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」受賞・平野 愛さん
受賞の言葉

 「希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」
小説『故郷』で魯迅はこう著しています。

 山本美香さんの信念と気骨は、その後に続く多くの取材者の道となり、希望にもなっているのだと思っています。そして、その道の小さな一歩を認めていただいたことに心から感謝申し上げますと同時に、言葉を奪われても尚戦い続けている香港の記者たちへの称賛だと理解しています。

 2019年に香港で始まった民主化運動は、2020年6月30日に導入された香港版国家安全維持法によって、元来香港が持っていた自由な空気と共に乱暴にかき消されてしまいました。今はもう催涙弾もペッパースプレーも発射されません。押さえ込むべき発言も、抗議のデモも、もうどこにも見当たらないからです。そんな中で隙間を縫うように取材をする記者の姿は、“あなたには何ができるのか”を常に突きつけられているように感じていました。

 本作のタイトルであるレッドライン(紅線)とは、越えてはならない一線、あるいは譲れない一線のことを表しています。そしてそれは自分たちの中にある自主規制への葛藤でもありました。このシーンの撮影は警察が来るから避けた方がいいのではないか、あの発言を入れてしまったら発言者は後々不利な立場に追い込まれないだろうか、など臆病や独りよがりとも戦いました。

 共同監督の佐藤と何度も何度も話し合い、時に激しい口論にもなりましたが、いつも私たちの心の中にあったのは香港の記者達への深い敬意とその信念の姿を知った責任でした。一度見た景色を見ていないことにはできないと思ってきたのです。

 佐藤は2025年4月、くも膜下出血により突然帰らぬ人となりました。52歳になったばかりでした。形あるものは、物も人もいつかは消えてしまうのでしょうけれど、思いは残り続けるのだと信じています。

 そして、香港の記者たちの闘いもいつか、そのあとに続く人々の道となり希望になるのだと信じ、願っています。

 素晴らしい賞を授けて下さり、心から感謝申し上げます。